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- 1936年のポットスチル
微粉炭直火蒸溜。そのストレートな剛熱が生む重厚かつ芳醇なシングルモルト。
1936年に誕生した余市の1号ポットスチルは今、
世界ウイスキー界の伝説になった。

11月。余市川は近づく冬の気配に、流れを静かに透明にする。つい一月前には、秋鮭たちが産卵のために川を銀色に輝やかさせて遡り、賑わっていたのがうそのようだ。
「雪虫か・・・もうすぐ初雪だな。」
毎年秋鮭釣りを港で楽しむという、初老の釣り師が、真綿のように降る雪虫に鼻を啜った。
「生のイクラはね、血合いを取ってガーゼにくるみ、味噌と味醂で漬ける。それが余市流なんだわ。ホント、美味いよ。酒がなんぼでも進むんだ、うん」


秋には鮭が乱舞する清流と交錯して、長く平坦な道が余市蒸溜所へと連なる。
60年以上も昔、創設者の竹鶴政孝が自宅から馬車で通った道。
しゃんしゃんしゃん。
馬車の鈴音が聞こえそうな素朴な景観は、昔も今もさほど変わってはいない。そして、その鈴音の幻聴は、工場内の1号ポットスチルまで続く。
日本でも本物の、最高品質のモルトウイスキーを作ることができる。できないはずがない。
竹鶴のそんな意志と悲願を託したポットスチルが稼働したのは、1936年。粉々に砕いた石炭を、スチルマンは汗にまみれながら炉にくべた。本場スコットランドと全く同じ、微粉炭直火蒸溜だった。

それから65年の歳月を経た現在も、ポットスチルはやはり石炭によって稼働している。この古来の手法を守り続けている蒸溜所は、今や世界でも希有。そして、 竹鶴の頑固なまでの一念は、世界一の称号を得た『シングルカスク・余市』として開花したのだ。
鮭は海水魚から淡水魚へと肺の機能を転換し、その命が果てるまで故郷の川を上り続ける。ただただ、新しい生命を残すために。DNAに刻まれた、頑固一徹の生命誕生メカニズム・・・。 余市蒸溜所の1号ポットスチルもまた、「生命の水」ウイスキーのDNAといえるだろう。
余市川の鮭がその生命とひきかえに産卵を終えた今、積丹半島は本格的な冬に突入しようとしている。