写真上:竹鶴政孝
写真下:リタ夫人
スーパーニッカの故郷である北海道・余市蒸溜所は、積丹半島の付け根、日本海に面し、余市川の河口にひらけた小さな町にある。澄んだ空気、程よい湿度、冷涼な気候、そして清冽な水と良質なピート(草炭)。ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝が、若き日にウイスキーづくりを学んだスコットランドにあったものが、余市にはすべて揃っていた。1934年、政孝がここを創業の地と定めたのは、この豊かな自然ゆえだった。
政孝がスコットランドから得たものは、ウイスキーづくりの知識と技術ばかりではなかった。リタ夫人とめぐり会ったのも、かの地だった。はるばる東洋から理想に燃えてやってきた若者と、文学を愛するもの静かなレディは、やがて結ばれ、若者の故国へ。
政孝のプロポーズに、夫人はこう応えたという。「マサタカさんは大きな夢に生きていらっしゃる。私もその夢を共に生き、お手伝いしたいのです」。
以来40年。道は平坦なばかりではなかったが、政孝は遠く輝く夢を追い、歩みを止めることはなかった。夫人がそれを支え続けた。
そのリタ夫人が1961年に亡くなった。最期を看取った日から二日間、政孝は自室を一歩も出なかったという。
悲しみから政孝を再び立ち上がらせたのは、夫人とふたり、余市の自然の中で育んできた夢だった。「ひとりでも多くの人に、本物のウイスキーを飲んでもらいたい」。
かつて、日本のウイスキー市場には、モルト原酒が一滴も含まれない、アルコールに香料と着色料を加えただけのイミテーションが蔓延していた。その味に慣れた人たちに本物を届けたい。その想いが、悲しみを力に変えた。後継者、竹鶴威・現相談役とともに、貯蔵庫にある原酒をチェックし、あらゆる組み合わせを試す。その時点で考えうる、最上のブレンドを。
そして辿りついたひとつの解。それがスーパーニッカだった。
1962年、満を持して発売されたスーパーニッカは、大卒初任給が1万7000円だった当時、3000円という高価格。中身だけでなくボトルにも凝っていた。生産量は年に1000本程度とごく少なく、市場では幻のウイスキーとささやかれた。
初代スーパーニッカ
竹鶴政孝の精神を受け継ぎ続ける、
新しいスーパーニッカ。
やがて日本は高度成長の時代を迎え、イミテーションではない本物の価値が認められ始めた。かつて幻といわれたスーパーニッカも、少しずつ売れ行きを伸ばしていく。
しかし、政孝は理想を追求して止むところがない。グレーンウイスキーを蒸溜するカフェスチルの導入(1962年)。余市とは違ったタイプの原酒を造る仙台・宮城峡蒸溜所の建設(1969年)。異なった風土で育まれた原酒をブレンドすることで、ウイスキーはより芳醇な香りを湛える。ブレンドされたウイスキーは、再貯蔵=マリッジによって一体化し、バランスの取れた味わいとなる。再貯蔵のための栃木工場も、1977年に完成した。
使える原酒が増えたことで、スーパーニッカの生産量も増加した。高嶺の花からプレミアムスタンダードへと、商品としての位置づけも変わった。
芳醇で、熟成した華やかな香りと穏やかなピートの香り。絶妙な調和から生まれるほのかな味とコク。カフェグレーンのブレンドによるスムースな口当たり、バランスのよいなめらかな味わい。その中身は政孝の当初のブレンドとは違っている。だが、その根本にある精神は、47年間、少しも変わることがない。
「ひとりでも多くの人に本物のウイスキーを飲んでもらいたい」。

−スーパーニッカとは、ニッカウヰスキーの製品の中で、どういう位置づけのウイスキーなのですか。
山下:スーパーニッカは、現行のラインナップの中で唯一、創業者である竹鶴政孝がブレンドしたウイスキーで、当時最高級のプレミアムウイスキーとして発売されました。創業者にとっては究極の酒であったろうと、当時を知る人が証言しています。現在のスーパーニッカは、創業者がブレンドした当初のものとは位置付けは異なっていますが、その精神は脈々と受け継がれています。
−現在のスーパーニッカの特徴は。
山下:スーパーニッカは、余市の重厚で力強い穏やかなピート漂うモルトと、宮城峡のやわらかで華やかなモルト、そしてニッカ独自のカフェスチルで蒸溜したカフェグレーン、この三つの原酒をブレンドすることで成り立っています。芳醇で、熟成した華やかな香りの中に、穏やかなピートが香ります。その絶妙な調和がほのかな味とコクにつながり、カフェグレーンをブレンドすることでスムースな口当たりを生んでいます。バランスのよいなめらかな味わいが特徴です。


−そのスーパーニッカが、今回、47年ぶりにリニューアルすることになったわけですが、新スーパーニッカにはどんな特徴があるのですか。
山下:新スーパーニッカは、余市と宮城峡それぞれのモルトと、カフェグレーンの三種類の原酒をブレンドする点では、従来品と変わりありません。芳醇で、華やかな香りとやわらかなピートの香り。甘く伸びやかな樽熟成香。そして絶妙なバランスから生まれるほのかな味とコク。言葉で表現すれば、そういうことになります。ただし、ウイスキーの嗜好は時代とともに変化しますので、現代の嗜好に合う、軽やかな味わいと、甘くてやわらかな香りが際立つ心地よい飲み応えを実現したことがポイントです。従来のスモーキーフレーバー(ピート香)を柔らかくし、新たに余市新樽のモルトを使用しました。
−余市新樽のモルトを加えることで、どんな効果が生まれるのですか。
山下:ウイスキーの貯蔵には新樽のほか、旧樽や、シェリー樽やバーボン樽など、さまざまな樽が使われます。樽は単なる容器ではなく、熟成のためのゆりかごの役割を果たします。樽の種類によって原酒の個性が異なってくるのですが、余市新樽の場合、リッチでウッディな香りと、スウィートなバニラ香で、世界的にも高い評価を得ています。新スーパーニッカでは、この新樽で熟成されたモルトを加えることで、リッチでスムースな味わいを生み出しています。



