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Whisky × Jazz

グラス片手に「大人の時間」を愉しむ為のコンテンツ Jazzy Short Short. THANKS REAL COMMENT. RADIO CHANNEL
Whisky × Jazz ジャズといえば、ウイスキー。この法則に、理由なんてない。 ただ、良質のジャズには、良質のウイスキーがよく似合う。それが事実。洒落たジャズを聴きながら、美味しいウイスキーを愉しむひととき。ここは、そんなゆったりとした「大人の時間」を、もっと素敵に演出するコンテンツ。さぁ今宵も、グラスにウイスキーを注いで、マウスをそっと握ったら、とびきりジャジーなドラマが始まります…。Presented by NIKKA WHISKY
Jazzy Short Short.ジャジーなショートショート♪
「チュニジアからの手紙」A Night in Tunisia & 竹鶴

テツから手紙が届いた。
 3週間ぶりの手紙。
元気か?
 俺は休みで今チュニジアに居る。驚いた?
 この間、町のパーティで、「チュニジアの夜」という曲が演奏されて、
 なんだかとても楽しげな、どちらかというと今住んでる
 セントビンセントの音楽みたいな曲だったんだ。
 それで、アフリカ大陸には行ったことがなかったから、休みを利用して来てみた。
 ここは、イスラム教の国だけど、あんまり厳しいイスラムではないようです。
 女の人も黒いマントみたいなのを着ている人はほとんどいない。
 (時々はいる、でも、ここの国の人かどうかは不明)
 高級リゾートみたいなものもあるし、シェリタリング・スカイ
 (って映画見たか?)に出てくるような街もある。
 古い迷路のような街だ。ローマの遺跡もあって、昨日行ってきた。
 世界史をちゃんとやらなかったから、あんまりよくわからなかたけど、
 ここはローマ帝国時代に重要な場所だったらしい。
 メシはめちゃめちゃ美味い。煮込み料理や、
 クスクス(これはカリブでも食べる)、イスラムだから羊が多い。
 イスラム圏だけど、立派なホテルではお酒も飲める。らしい。
 けれど、泊まっているのはいつものように安宿だから、ホテルじゃなくて、
 こっちへふにんしている先輩の家で飲ませてもらったよ。
 ちょうど日本から奥さんが来ていて、日本のウィスキーを飲ませてもらった。
 貴重なもの(外国では日本の食べ物はいつでも貴重だ)だと思うけど、
 先輩と盛り上がってしまって、全部飲んでしまった。
 とっても美味かったから、今度日本へ帰ったら一緒に飲もう。
 「竹鶴」っていう名前のウィスキーだよ。なんか日本的な名前だろ?
 それで、実際は音楽で聞いたようなカーニバルみたいなのはない。
 先輩に聞いたら、今年は来月の9月からこっちはラマダンに入るらしい。
 ラマダンって知ってるか?イスラム教徒はラマダンの間は、
 日の出から日没までメシを食わないんだ。
 もちろん水も飲まない(この暑いのに!)。すごい人はつばも飲み込まないらしい。
 で、夜になるまでレストランもやってないから、日が沈むとみんなお祭り騒ぎらしい。
 そりゃあ、食べなきゃ昼間なんてなんにもできないよな。
 なんかそういう時のまつりのイメージなのかなあ。一度その曲を聴いてみてください。
 明日はサハラ砂ばくを見にいくつもりだ。すっげー楽しみ。
 また手紙する。
 テツ

テツの手紙はいつもわら半紙のような薄い紙に汚い字で書かれている。読み慣れたけれど、鉛筆で書くから部分的に消えかかっているところもある。なんだか小学生の夏休みの日記のような手紙。

世界地図を広げて、チュニジアをという国を探してみる。地中海に面したアフリカ大陸の国。
 休暇が出たなら日本に帰ってきてくれればいいのに、と恨めしく思うけれど、テツには日本の社会は息苦しいのだろう。その割には日本食と日本のウィスキーが大好物だから、たまに誰かに日本のものをもらうとすごくうれしいみたいだ。
 普段はあまり思わないようにしているけれど、休暇でどっかに行かれたりすると、ちょっとさびしくなる。
 いつまでこんな風に超遠距離恋愛を続けるんだろう。
 テツは将来のことをどう思っているんだろう。
 私も一緒に行きたかったな、と思う。

テツと私は中学生時代の同級生だ。でもずっと付き合っていたわけじゃなくて、今の会社に入って5年目に会社の友達とモルディブに旅行に行った時に偶然再会した。
 「現地の人なのに、昔の同級生にそっくりだなー。」と思って見ていたら、本人だった。それから、手紙を交換するようになって、日本に帰ってきたら会うようになって、そのうち日本に帰ってきたら家に泊まるようになった。
 テツは発展途上にある国のODAの仕事をしているから、あまり聞かないような外国で暮らしている。不便なところにある国だから、一度も赴任先に私をよんでくれない。
 治安が悪いからとか、衛生的でないからとか言って、今いるカリブ海の島国にも行ったことはない。
 今時、どんな発展途上国でもインターネットカフェぐらいあるだろうに、メールをくれることもなくて、いつも汚い字の手紙が送られてくる。
 停電なんかも多いような国の(そういう国は大抵暑い国が多いのはなぜだろう?)、小さな机に向かって、大きな体を折り曲げながら手紙を一生懸命書いているテツの姿が浮かぶ。普段英語ばかり話すせいか「ひらがな」が段々多くなってきている。「砂ばく」なんて小学生でも書けるんじゃないかと思うけれど、うろ覚えだったのか、すっかり忘れてしまったのか・・・。
 そのうちに私のことも忘れられてしまうんじゃないかと思う。次の手紙はもう来ないかも、と思っていると、汚い字で私の名前を書いたテツの手紙がポストに入っている。
 彼と付き合いはじめてもう3年。
 そろそろ私も将来のことを考えなくてはとは思うものの、ついついテツからの手紙を待ってしまうだけになっている。

手紙を読んだ次の日、会社の帰りに「チュニジアの夜」が入っているアート・ブレイキーのCDを買ってきた。テツのことだから、この曲を聴いて踊っていたに違いない。手紙の中にあったウィスキーも買って、音楽を聴きながら飲んでみた。
 いつまでこうして、テツの体験をひとりで追いかけなくちゃいけないんだろう。
 「竹鶴」。
 このお酒を持って、彼のところへ行ったら彼は喜んでくれるだろうか。
 もうそろそろ休暇も終わって戻っているころだ。


次の手紙が届いたら、彼の住むセントビンセントに行ってみようか。
 彼の大好きな日本食とこのウィスキーを持って。
 そして、旅してきた話を聞きながら、チュニジアの夜を一緒に聴きたい。
 私も一緒に踊れるだろうか。

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