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Whisky × Jazz

グラス片手に「大人の時間」を愉しむ為のコンテンツ Jazzy Short Short. THANKS REAL COMMENT. RADIO CHANNEL
Whisky × Jazz ジャズといえば、ウイスキー。この法則に、理由なんてない。 ただ、良質のジャズには、良質のウイスキーがよく似合う。それが事実。洒落たジャズを聴きながら、美味しいウイスキーを愉しむひととき。ここは、そんなゆったりとした「大人の時間」を、もっと素敵に演出するコンテンツ。さぁ今宵も、グラスにウイスキーを注いで、マウスをそっと握ったら、とびきりジャジーなドラマが始まります…。Presented by NIKKA WHISKY
Jazzy Short Short.ジャジーなショートショート♪
「MORE THAN THIS」 MORE THAN THIS and Bunnahabhain

「気持ちいい。」
 日射しは強いが、木陰に居ると風もあり、肌寒くさえ感じる。
 加子はホテルの中庭の芝生に寝転がって大の字に伸びている。
 「そんなことしてると、大蟻に噛まれるよ。」
 「あーそうかもねえ。」
 私は寝ころんでいる加子の向こう側に広がっているサバンナに目をやる。
 遙か遠くの地平線のあたりをゆっくりとキリンが1頭歩いて行くのが見える。
 「キリンが歩いてる。」
 「ロスチャイルド?」
 「どうだろう。」
 「さっきはロスチャイルドなんてサリームさんが言うから、
 子どもをなくしたキリンのことかと思わなかった?」
 「え?違うの?」
 「さっき、ガイドブックを見たら、綴りが違ってた。
 キリンの種類みたいよ。ロスチャイルド種っていう種類。」
 「へえ。」

のんびりした午後。
 昼食を食べた後は、夕方のサファリまで自由時間だ。

「ウィスキー、持ってきてよかったねえ。」
 加子がポーチに戻ってきて、コーヒーカップにブナハーブンを注ぐ。
 ケニアのビールもとても美味しいが、こうしてゆっくり過ごす午後には
 ウィスキーの酔いが心地良い。普段はストレートでなんて飲まないのに、
 なぜかここではストレートがとても美味しく感じる。
 「なんでなんだろう。なんだか、めちゃめちゃ美味くない?このお酒。」
 「うまい、うまい。お休みだし、
 アフリカだし、大自然だし、美味くないわけないのかも。」
 のんびりモードのせいか、会話も間のびしてしまう。
 「来てよかった。ありがと。誘ってくれて。」
 加子は聞いているのか、いないのか、返事もしないで遠くを見ている。
 最近私に起こった色々な出来事について、彼女も噂では聞いているだろうに、
 そのことは何も言わない。きっと色々聞かれるだろうと覚悟して来たのに。

「会社辞めた」とメールをした1週間後。
 「どうせヒマでしょ?私も休みが取れたから、来月アフリカに行こう!
 パスポートあるよね?もう代金は立て替えておいたから。
 黄熱病の予防接種だけしておいてね。」
 と、半ば強引に連れてこられたケニア。
 野生動物なんて全く興味がなかったのに、初日で完全にはまってしまった。

ナイロビに着いて、ツアーバンに乗り込み、ちょっと郊外に出ると人家の近くに、飼われているかのようにシマウマがいて驚いた。2、3時間も走ると遠くを行く象やガゼルを見かけるようになる。最初は加子と二人で舞い上がって写真を撮りまくっていた。けれどそのうちに慣れてしまって、シマウマくらいでは写真を撮らなくなった。
地平線。牛の糞で作られた小さな家。独りでどこに行くのか、赤いチェックの布を肩からかけたマサイ族の少年。彼は突然茂みの中から現れて、茂みの中に消えていった。

圧倒的な平原。道端から私たちのバンをじっと見つめる人たち。原色の花。
 ずっと遠くで雨を降らせている雲。

サファリの朝。
 バンを停めて、ガイドのサリームさんがエンジンを切る。
 しんと静まった中で、5メートルほどしか離れていない象の集団が草を噛む「シャクシャク」という音だけが大きくなる。シャク、シャク、シャク、シャク。
 象はその大きな体を維持するために食べ続けなければならないらしい。シャク、シャク、シャク、シャク。

 ブナハーブンを継ぎ足しながら、あのシャクシャクの音を思い出していた。

「音楽でも聴こうか。」
 準備のいい加子が、部屋からCDプレーヤーと携帯用のスピーカーを持ってくる。
 かすれたハスキーボイスが、I could・・・と歌い出す。
 「ノラ・ジョーンズ?」
 「そうそう、懐かしいでしょ。ロキシー・ミュージックだよ。聞いた?高校生の時?」
 「聞いた。聞いた。ロキシー・ミュージック聞くのなんて、
 不良だったよね。でも、ジャケット、格好よかったね。」
 「ああ、懐かしき80年代。我らが青春。」

このちょっと哲学的な歌詞を、一生懸命訳したことを思い出す。

「この曲さ、『ロスト・イン・トランスレーション』で主人公が歌ってたよね。見た?」
 「え?どこだろう。見たけど・・・スカーレット・ヨハンソンが
 新宿のホテルでだらだらする話だったよね?コッポラの娘が監督の。」
 「ほら、もうひとりの主人公が渋谷のカラオケで歌うシーンあったでしょ?」
 「ああ、あった、あった。あれって、この曲だっけ?」
 「あれって、まさに、ビル・マーレイが私たちの世代ってこと?って思ったよ。」
 「ゴースト・バスターズ!」
 酔いの回った私たちは、笑いあい、私も芝生に寝ころんでみる。

「気持ちいいね。贅沢だねえ。」
 「本当、贅沢。」

「『河口』っていう意味なんだって。」
 「何が?」
 「このスコッチ。」
 加子はちょっとしたウィスキー通だ。
 「有名なお酒?」
 「うん、大統領のパーティにも出されるくらい有名。
 ネットに載ってた。アイラ島っていう所で作られてるの。」
 「不思議だねえ。そこから日本に来て、
 それからアフリカまで旅してる。このウィスキー。」
 「いいところみたいだよ。アイラ島。なあんにもなくて。
 村の殆どの人がこのウィスキーを作っているところで働いている、
 島の北東の端っこの小さい村なんだって。」
 「ふうん。」
 「鹿とかアザラシとか野生の山羊とかいるらしいよ。
 小さな川があって・・・。今度はそこへ行ってみようよ。」
 「そんなに次々旅行に行けるほど貯金ないよ。」
 「だから、また働いてさ。元気になってからでいいから。
 象みたいに、食べ続けるんだよヒトも、私も、貴女も。」
 「・・・・・。」
 「でさ、またぼーっとしようよ。
 牡蛎がとれるらしいよ。そこは。
 それで、牡蛎にウィスキーかけて食べるんだって。
 ウィスキー飲みながら。美味しそうでしょ。」
 「うん。」
 「なによ。うん、うんって。
 また次があるって思わないと、この気持ちよさが減るじゃない?」
 「・・・加子、ありがとね。」
 「何が?この酒?もちろん半分代金は払ってもらうからね。」
 「そうじゃなくて、誘ってくれて。連れてきてくれて。」
 「いいってば。弱みにつけ込める友達が居て私も助かったわ。
 こうして、弱った友を捕まえて自分の行きたいところに
 付き合わすのが目的だからさ。」
 「え?そうだったの?」
 「当たり前じゃない。さ、夕方のサファリまでに少し昼寝しよ。
 飲み過ぎると、晩ご飯食べられないよ。」
 加子は嘘が下手だ。でも嘘をついてくれるのも優しさなんだ。こんな風に長く付き合える友達こそが、人生の彩りだろうか。それぞれの癖も性格も分かって一緒にいられる友達。男の事なんかで凹んだ自分が可笑しくなる。

生きていれば色んな事がある。
 けれども色んな場所もある。
 色んな人がいて、きっとこの瞬間もアイラ島ではウィスキーを作っている。日本では私が居なくてもいつものように社会は動いている。
 マサイ族の少年は歩き続け、どこかで象は草を食べ続けている。
 そんな風に回っている地球を空想しながら、午後の眠りについた。
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