現在ご覧のページは:
  1. HOME
  2. Whisky×Jazz
  3. Jazzy Short Short.
(本文ここから)

Whisky × Jazz

グラス片手に「大人の時間」を愉しむ為のコンテンツ Jazzy Short Short. THANKS REAL COMMENT. RADIO CHANNEL
Whisky × Jazz ジャズといえば、ウイスキー。この法則に、理由なんてない。 ただ、良質のジャズには、良質のウイスキーがよく似合う。それが事実。洒落たジャズを聴きながら、美味しいウイスキーを愉しむひととき。ここは、そんなゆったりとした「大人の時間」を、もっと素敵に演出するコンテンツ。さぁ今宵も、グラスにウイスキーを注いで、マウスをそっと握ったら、とびきりジャジーなドラマが始まります…。Presented by NIKKA WHISKY
Jazzy Short Short.ジャジーなショートショート♪
「プライベートタイム」 Morning side of life&オールモルト

仕事は所詮ゲームにすぎない。
 それぞれの環境のルールでせめぎあい、押し付けあい、飲み込みあい、ほどいいところへ着地させる。会社勤めだから、なおさらそこには「予定調和」の空気が流れる。
 頭にくるクライアントでも、コントロールしやすいクライアントでも、そこで行われる様々なやりとりは、本当の自分からは遠い世界で起こっている現象のようだと思う。

「なんだかやりにくい」と感じるのはクライアントの上層部が女性の時だ。
 女性が管理職として登場しはじめたのは、この7〜8年のことだろうか。公共性の高い会社ほど、女性管理職が配置されるようになってきている。
 まず女性がやっかいなのは、「接待」がしづらいことだ。
 「接待」。高度成長期の時代には、男だけで、する方もされる方も喜んでやっていたのだろう。
 最近はする方もされる方もそれほど楽しいわけではないが、「接待している」「接待されている」という役割の中で義務化している感じがする。
 私も接待は苦手だった。若い頃は「人の金で酒を飲んで何が楽しいんだ」と思っていた。しかし、自分にも役職がつくようになるとそういうわけにもいかず、「楽しいふり」をして「楽しまされているふり」をされる。もしかしたら、「接待」とは昔からそういうものだったのかもしれない。
 ところが、女性の場合はクラブに行くわけにもいかないし、当然キャバクラなんて全く喜ばれない。特に女性で管理職まで上りつめるタイプというのは、真面目で堅いイメージの人が多いように思う。高学歴で入社しているのだろう。人生で一度も遊んでこなかったかのように見える。

仕事のやり方もそうだ。今まではなんとなく「任せるよ」みたいな慣習で続いてきたことを平気で「どうしてそうなっているのか説明してください」とか言われる。説明するのは構わないけれど、そのせいで仕事の量は増えるし手間も増える。

彼女も典型的なそういうタイプだ。抜擢されて緊張しているのは分かるけど、上がそんなにきっちり仕事をしたら、部下は大変だろうな、と思わせるようなやり方だった。
 やっと納品まで漕ぎつけ、最大の難関である「打ち上げ」という名の「接待」がさっき終わった。男性だけならそのまま女性のいる店に二次会でなだれ込むのだろうが、彼女が居たせいで、なんとなくそのままお開きになってしまった。
 私としては早く仕事が終わってありがたいのだが、私の部下達が気を利かせて先方の若い連中を誘ってくれればいいのに、とも思う。

あまり盛り上がらない打ち上げだった。
 体育会系男子を多く採用する我が社では、「裸芸」の達人はいても、女性管理職と会話が弾むようなテクニックを持った奴はほとんどいない。
 仕方なく、私と彼女で差し障りのない話をし、共通の話題も探せないまま終わってしまった。女性にあまり酒を勧めるわけにもいかず、私もなんだか飲み足りない。
私には仕事で飲んだあと、必ず立ち寄る店がある。
 そこへは人を連れて行ったことはない。繁華街から少し離れたところにあるそのバーは家に帰る前に自分に還る場所だ。
 急な階段を上ってベルがついているドアを開けると、いつも赤いチョッキを着たマスターが無愛想に応対してくれる。マスターがジャズ好きでここではジャズ以外の音楽が流れることはない。マスターは無愛想なくせに、ジャズとウィスキーのことならよく喋るというマニアックなマスターだ。
 カウンターに座っていつもの「オールモルト」をオーダーする。
 オールモルトを飲むのはここだけと決めている。これを飲んでいる時の自分だけが本来の自分だと思いたいからかもしれない。

今日はチコ・ハミルトンがかかっている。生きている伝説と言われるドラマー。スリリングな演奏に集中していると、さっきまで自分が居た世界が別世界で起こったニュースのように思えてくる。

小さく溜息をついて、2杯目をオーダーしたとき、カウンターの端に座っている女性に気が付いた。ここで女性が独りで飲むのは珍しい。

目があって驚いた。さっきまで接待していた女性管理職だった。思わず声をかけそうになったが、その様子を、手のひらをこちらに向けるゼスチャーで止められる。
 彼女は軽く会釈をし、その会釈には「ここでは私人ですので」という、「話しかけないでくださいね」という念力が入っていた。
食事会が終わり、呼んでおいたタクシーに乗り込んだ雰囲気と今は全く違う。洋服が変わっているわけではない、何も変わっていないのに、驚くほどこの店になじんでいる。
 昨日今日の常連ではないのだろう。
 彼女は私を見ても全く驚いていないようだ。もし隣に総理大臣がやってきて飲んでいたとしても「あ、総理大臣ね」くらいの扱いで無視して自分の酒を飲むに違いない。
 ストレートで飲んでいるところをみると酒も強いのだろう。彼女の目の前に置かれているボトルは「ブナハーブン」だ。スコッチが好きなのだろう。
 さっきは勧めてもあまり飲まなかったのに、そのスコッチをストレートでゆっくり、実に美味しそうに味わっている。
 あまり見ては失礼になると思いながら、どうしても視界の端で観察してしまう。

目に入ってくる情報と既存の情報が錯綜して、結論が導き出せない。
 だが、今はプライベートな時間だ。何も結論など出さなくていいのかもしれない。チコのスリリングな演奏は、「瞬間」だけを切り取っているではないか。

彼女も「女性管理職」というゲームに挑戦しているだけなのかもしれない。そのルールがちょっと私には分かりづらいだけで、本当の彼女はもっと違う人なのかもしれない。
 でも、それも私には関係ない。
 今は、ジャズを聞きながら自分に還ろう。
 ここに誰がいても、ここは私の場所には違いないのだから。
WHISKY REAL EPISODE.美味しい1杯のエピソード♪ウイスキーと愉しみたい、「お気に入りの1曲とエピソード」をご紹介。 Jazzy Short Short.のお気に入りストーリー投票にご参加ください。 このストーリーに投票する! BLUE NOTE J@ZZ FESTIVAL RADIO CHANNEL ブルーノート選りすぐりの音楽をオンラインでお届け♪
NEW THANKS REAL COMMENT.“ジャジーなコメント”を、ありがとう♪みなさまから頂いた“ジャジーな感想文”を一部ご紹介!筆者からのお礼のメッセージも掲載中! BLUE NOTE J@ZZ FESTIVAL RADIO CHANNEL ブルーノート選りすぐりの音楽をオンラインでお届け♪
  • Page top
(本文ここまで)