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第16話

第16話

ウイスキーの一番美味しい飲み方は?

職業柄か「ウイスキーの一番美味しい飲み方は?」と聞かれる。無難なところではタンブラーにウイスキーをワンショット(30㏄)入れ、水を 60㏄、これに角を取った純氷を少々入れて少しかき回す、というものだ。純氷の角を取るのは氷を溶けにくくするためで、水は日本のミネラルウォーターがちょうど良い。ただし、ミネラルが多い水はウイスキーの水割り用には適していない。マドラーでかき回し過ぎると氷が溶け過ぎて水っぽくなってしまう。

気をつけなければならないのはカルキ臭のする水道水と、カルキ臭い水で作った氷、グラスに残った匂いである。カルキ臭のする水や氷では、せっかくのウイスキーの美味しさが半減してしまう。また、よく洗浄されていないグラスや匂いのある布巾で拭いたグラスも然り。これらの要因のひとつでもあろうものならウイスキーはもちろん、コニャックや焼酎、カクテルなもたちまち不味い酒になってしまう。

では、薄めの水割りが良くないかといえば、そうではない。タンブラーに氷を多めに入れ、薄めの水割りを作る。夏の暑い日など、最初の一杯に飲めば喉の渇きがあっという間にひいてゆく。逆に冬の寒い日には温かいウイスキーが気分をホッとさせてくれる。タンブラーか陶器のカップにウイスキーワンショットとスプーン半分の砂糖、熱いお湯を入れて「ウイスキー・シンダー」を作って飲み、そのまま寝ると、少々の風邪は翌朝にはスッキリ治っていたりすることもある。「シンダー」というのは石炭の燃えカスという意味で、大学時代、風邪をひいたかな、というときにリタおふくろがよく作ってくれたものだ。レモンを加えると、さらに飲みやすくなる。これを飲んで布団に入ると、体がポカポカしてぐっすりと眠れる。

英国では水割りを注文すると、必ず水の入れ方を聞いてくる。昭和38年、初めてスコットランドへ行ったとき政孝親父とパブに入ったところ、タンブラーに45㏄のウイスキーが入ったものが出てきた。水割りで飲むときはバーテンダーが「水をどのくらい入れるか?」と聞いて水を足してくれる。あちらは気候のせいもあって氷をあまり使わない。タンブラーで飲むと香りも立つのでウイスキーの豊かな香味が楽しめる。しかし、これが日本ともなると水割りはタンブラー、オン・ザ・ロックはロックグラス、ストレートはショットグラス、とグラスを取り替えるが、私はタンブラーがひとつあれば充分ではないかと思う。

政孝親父は水割りにして飲んでいた。ボトルデザインは徹底的に凝るのだが、グラスは竹と鶴が刻まれたクリスタルのタンブラー。ウイスキーと水をグラスに入れ、マドラーは使わない。政孝親父曰く「ウイスキーを先に入れ、その上に水を入れると自然に混ざるからいいんじゃ」と言い、少なくなると再びウイスキーと水を足す。それが飲んでいるうちにだんだん濃くなっていった。

戦後、ウイスキーの炭酸割り「ハイボール」が流行した時期があった。「ハイボール」の発祥の地はアメリカだが、スコットランド人のウイスキー専門家の間では不評であった。「良いウイスキーをわざわざ炭酸で割るのは如何なものか」ということらしい。その後、水割りが当たり前のように飲まれるようになった。氷をタンブラーにたっぷり入れ、ウイスキーを注ぐと水を足し、マドラーでグルグルとかき混ぜる。果たしてこれが美味しいかどうか。ともあれ、ウイスキーは嗜好品なのだから、自分が美味しいと思える飲み方が一番ではないかと思うのだ。