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第26話

第26話

キーパーズ・オブ・ザ・クワイヒ

オフィス、というと机が並び、話し声や電話、ファクシミリが届く音で賑やかな印象があるが、私の机がある相談役室は独り部屋。数年前に突如パソコンがやってきて、最初は戸惑ったが、最近ではメールのやりとりや仕事、さまざまな情報交換に活用している。

私の部屋には、書類やお酒に関する書物の他に、年代物のウイスキーやコニャック、化石や小さな樽、知り合いから贈られた置物や盾、「ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(S・M・W・S・)」の会員頒布用のウイスキーに認定された余市モルトなどが置かれている。

風変わりな形をした銀色の器は「Quaich=クワイヒ」というもので、1992年5月18日、「キーパーズ・オブ・ザ・クワイヒ」に叙任されたときに記念に贈られたもの。円形の器の両側にハンドルが付いていて、ケルト風の模様の装飾が施されたスコットランド伝統の酒杯だ。昔は木製で、近世からは金や銀でつくられている。ニッカウヰスキーがスコッチウイスキーを日本の代理店として販売しており、貢献したということで会が催されるスコットランドのブレア・キャッスルに招待されたのだった。

ブレア・キャッスルは、エディンバラから鉄道でブレア・アソール駅まで約2時間。そこからさらに1・6キロの場所にある白亜の城で、英国で唯一、私有軍隊の所有が許されている。軍服に身を包み銃を構えた厳しい表情の兵士達は、昼間は羊の世話をしたり農作物を作っていたり。少々、拍子抜けする話だが、緊急事態が起こることなど皆無、のどかな雰囲気なので私有軍隊はムードメーカー的存在なのであろう。

「キーパーズ・オブ・ザ・クワイヒ」の叙任式では、巨大なクワイヒに触れ、幾つかの質問に答えると正式会員と認定されるのだが、ユニークだったのはパーティーでの最後の乾杯。クワイヒにウイスキーを注ぎ、それをイッキに飲み干すのだが、量はゆうにロックグラス1杯分はある。まず一回目は普通に「スランジェ・ヴァー(ゲール語で乾杯、の意)」。次に椅子の上に乗って「スランジェ・ヴァー」。会場は盛り上がり、終いにはテーブルの上にあがって「スランジェ・ヴァー」。

天井が高いので頭をぶつける紳士はいなかったが、随分とたくさんの人がテーブルに上がっていた。あちらは人前で靴を脱ぐ習慣がないので、勿論、土足である。まだ皿やグラスが置いてあってもお構いなし。これも無礼講といったところであろうか。日本でも宴会で万歳三唱をやるが、どこの国も似たようなことをやるものだと感心したのを覚えている。宴は数時間にも及んだ。

「キーパーズ・オブ・ザ・クワイヒ」に叙任されると美しいブルーのキルトが会員の紋章として着用することができる。キルトはタータン柄を用いて作られた男性の正装用のスカートで、その柄はスコットランドの氏族によって異なり、日本でいうところの家紋のような役割を果たしてきた。膝丈でプリーツがある巻きスカートで、ウールのタータン・チェック柄。本来はスコットランド高地人や軍人たちの正装であった。

私もパーティーなどへ招かれたときにキルトを身に着けることがあるのだが、キルトを穿く時は必ずスポーランと呼ばれる大きな布袋を腰にぶら提げる。スポーランは山羊革や毛足の長い毛皮でつくられ、独特の房飾りが付き、本来は財布などとして用いられていたという。ちなみにキルト着用の場合、下着は付けないというのが正装。スポーランがしっかり錘の役割を果たしてくれているので冷や冷やすることはない。ただ、キルトを着ている男性にスカートの下の話をするのはタブーとされているらしい。

懐かしい、思い出深い、喜ばしいものに囲まれていると、いろいろなことが脳裏をよぎっていく。調べ物をしようと本棚を開けると、思いがけず懐かしいものが出てきて見入ってしまったりすることもある。果たして仕事に適した環境なのかどうか・・・・そう考えつつも、実は「大変居心地が良い」と感じているのである。そして、由緒ある飲み物、書物、写真などなど後継者にいかに譲り渡すか、飲む会を開いてウイスキーなど片手に語り合いたいものだと思っている。