余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第55話

第55話

ワンハンドレッドクラブ

昨年12月の回想録に「余市ニッカの会」の話を書いたが、私の知人が発起人となって発足した「ハンドレッドクラブ」という会がある。偶数月に会合を行ない、その数、515回を数えるまでになった。最初は数人が集まってホテルの一室でニッカを飲むと言うものだったらしい。当初は立教大学出身者が多かった(私は途中から会員になった)。

ウイスキーは1杯100円で、追加するたびに100円をあらかじめ用意していた箱に入れ、自分でオン・ザ・ロックや水割りなどを作って楽しむ。ざくざくと集まった100円玉で新しいウイスキーを買い、また集まって飲むという会だったのが、少しずつメンバーが増えて、現在では50人を超えた。

「ハンドレッド」とは数字の“100”だが、これは発起人である初代会長の「何事も“100”集めると、そこに何かを見出せるはずだ」という信念に由来するものであった。

初代会長が100近く蒐集したものに、赤ん坊を抱いたお地蔵様の写真があった。「お地蔵様」というと道端にひっそりと佇んでいる小さな石像という印象が強いが、本来、「地蔵」とは仏陀が没した後、弥勒菩薩が成仏するまでに世に現れ、人々を救う役割を果たす菩薩のことである。初代会長が蒐集した写真は必ず赤ん坊を抱いており、それは隠れキリシタンに深い関わりがあるものだと聞かされた。お地蔵様を聖母マリア、赤ん坊はイエス・キリストに擬えたのであろうか。

集まった写真はキリスト教を研究している人達によって解説文が書かれ、大変立派な本になった。しばらく私の手元にも一冊あったのだが、これはぜひとも有効に使って欲しいと思い、立教大学に納めさせていただいた。私は特に何かを集めるという趣味はないが、逆に集まってくる傾向があるようだ。ウイスキーや古い文献、ニッカ愛好者の方が贈ってくださった楯や看板、その他諸々。どれも思い出深いものなので大切に保管させていただいている。

あの、故ディック・ミネ氏も立教大学卒業ということで「ハンドレッドクラブ」の会合に顔を出してくださったことがあった。当時、札幌で『ダイナ』という店を経営されていて、政孝親父とも交流があった。徳島出身で本名は三根 徳一氏。厳格な教育者であった御父上が「徳島一」の男になるよう名付けられたらしい。

大学時代は相撲部に籍を置いたこともあり、卒業後、御父上に勧められ逓信省貯金局に就職したが、以前より興味があった音楽の世界に転身。人気映画女優とのデュエット『二人は若い』や『波止場がらす』、『ゆかりの唄』などが次々とヒット。他にも『アイルランドの娘』や『イタリーの庭』などの外国の歌を日本語で歌い、名ジャズシンガーとして注目を集めたようだ。彼は女性から大変人気があり、豪快ながらも細やかな心遣いを忘れない人であった。

彼がホテルでディナーショーを開く際に、「全部ニッカのウイスキーや飲み物を用意して欲しい」という依頼があったので、喜んで提供させていただいた。ある日、彼の事務所の方が「幾らお支払いすれば宜しいですか?」と訪ねて来られた。実際にかかった金額より多くの予算を準備されていて、随分と律儀で豪快な人だと感心したのを覚えている。

ウイスキーを通じて様々な交流を持つことが出来た「ハンドレッドクラブ」だが、私が名誉会長に任命されていた時分、会長が任期を終え、次の人に会長職を譲ることになった。その際、「そのときで結構ですから、私は名誉会長ではなく、メンバーか顧問にしてください」と申し上げた。すると「その件については次の会長にお伝えしておきましょう」と快諾してくださったのである。

私は内心、これで気分が楽になる…と安心していたのだが、次の会合で会長の引継ぎをするとき「では、竹鶴名誉会長は、これから“終身名誉会長”ということで…」と言われたときには驚いたと同時に(やられた!)と苦笑してしまった。名誉どころか“終身”までついてしまっては辞めさせていただくのは到底無理そうである。しかし、そんな茶目っ気のあるところが面白く、終身名誉会長を快く引き受けさせていただいた。

会や団体を結成していなくてもニッカのウイスキーを愛してくださる方々がいらっしゃるのは嬉しいものである。私は常々、ウイスキーという酒は人と人を繋ぐ不思議な力があると思っている。シングルモルトブームが訪れたのも、シングルモルトの味わいばかりでなく、人との交流、そこで交わされる会話の面白さなど様々な要素があるのではないか。そう思いながら飲むと、ウイスキーがより美味く感じられる。