余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第59話

第59話

にごり酒

今年は『竹鶴21年ピュアモルト』が「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で世界最高賞「ワールド・ベスト・ブレンデッドモルト」を受賞したということもあり、折に触れ話題にのぼるようになったが、広島県竹原の竹鶴本家でつくっている日本酒『竹鶴』の話題もよく耳にするようになってきた。

合鴨農法米で仕込んだ純米酒や純米にごり酒などをつくっているが、竹鶴酒造が私の本家だからなのか「何処(の酒屋)で手に入りますか?」と尋ねられたり、「某駅前の酒屋で『竹鶴』の珍しい銘柄を売っていた」とお知らせいただいたりと、最近“竹鶴”“竹鶴”と賑やかである。日本酒をお好みの方は、竹鶴と聞くとピュアモルトウイスキーではなく日本酒を思い浮かべられるかもしれない。

政孝親父の父、敬次郎は「酒は、つくる人の心が映るもんじゃ」と口癖のように言っていたという。そして「酒は、一度死んだ米を、また生き返らせてつくるものだ」とも言っていたらしい。酒づくりはよい酵母菌を選び育て、よい蔵ぐせを持続しなければならず、一度まずくなると伝統的にまずくなり、悪い癖はなかなか直らない。そんな酒づくりの厳しさを体感して育った政孝親父は、日本酒ではなくウイスキーづくりに生涯を捧げたが、日本酒でもウイスキーでも、つくり手の心構えが味わいを大きく左右する事に変わりはないのだと思う。

さて、にごり酒といえば専ら日本酒だが、これはもろみを粗布だけで濾過して米や麹の粒を残したもので、白い色とコクのある独特の味わいが特徴である。“にごり”を商品の特徴にしたジュースも市場に出回っているが、思えば政孝親父がウイスキーの熟成を待つ間にりんごジュースを売り出した際、ペクチンが凝固し、にごりが出て東京の本富士警察署から呼び出しを受けたことがあった。

本来、ジュースが混濁するのは自然な現象だったのだが、当時は清涼飲料水営業取締規則によって混濁したものや沈殿物、または固形の夾雑物(※)があるものは販売することが出来なかった。そのため大日本果汁(現・ニッカウヰスキー)では、一度濾過をして、透明にしてから瓶詰めしていたのである。何より当時は消費者がにごりというものに抵抗があり、買ってもらえるはずもなかったのだ。

しかし最近では“にごり”というと凝縮感がある(濾過していないので)、濃厚感がある、と人気が出ているのだから人間の心理というのは面白いものである。また、日本酒では、“にごり”の他に“無濾過”の物も「日本酒そのものの味わいが楽しめる」と通の間で人気のようだ。濾過を行わないのでわずかにうっすらと濁っているが、それも“無濾過”ならではのもの、と抵抗なく受け入れられている。その状況を、私は羨ましいと感じることがある。

通常のウイスキー製品は、原酒をマイナス5度くらいに冷却して濾過を行う。それにより澱の原因となる物質を取り除くことが出来るが、原酒に比べて若干香りやコクが落ちてしまうことは否めない。澱、というとマイナスのイメージを持たれやすいが、ウイスキーの澱は不純物ではなく、多くは香味成分である。それをわざわざ除去してしまうのはあまりに勿体無いので“このウイスキーは澱が出ます”と堂々と注釈をつけて“無濾過”のウイスキーを出したらどうか、と随分昔に提案したことがあったが、あえなく却下されてしまった。

しかし、あるウイスキー愛好家の方は、古いスコッチウイスキーの中に、ごくまれに澱が沈んでいる物があり、それをわざわざ探して飲むのが楽しみなのだという。真偽のほどは定かではないが「底に残ったウイスキーのほうが濃いような気がする」とも話していた。ウイスキーを好む方は、ウイスキーに様々な楽しみを見つけ出すのが得意なようである。

6月20日は政孝親父の誕生日であった。昭和15年に『ニッカウヰスキー』(通称:ニッカ第一号)を世に送り出して以来、余市に続いて宮城峡蒸溜所を設け、昭和38年には日本初のカフェ式蒸溜機を導入。ウイスキーは熟成を重ね、35年を越える長期熟成のものも誕生している。政孝親父の夢は、これからも受け継がれ、終わることはないのだ。『ハイニッカ』が大好きで毎晩のように楽しんでいたが、今年の誕生日は記念すべき年を迎えた『竹鶴21年ピュアモルト』を味わってくれたのではないか…。ふっとそんな気がするのである。

(※)夾雑物/あるものの中にまじっている余計なもの(大辞泉より)