余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第70話

第70話

“Och no! Japanese whisky is voted best in world”

権威あるウイスキーの国際コンテスト「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で、1987年に蒸溜し樽詰めされた『シングルモルト余市1987』が世界一のシングルモルトに選ばれた。満20年の原酒だけを使用したヴィンテージウイスキーシリーズは2004年から発売を始めたものであるが、このたび世界一の栄誉に輝くことができて大変喜ばしい思いである。

1987年といえば、国鉄が分割・民営化されJRグループに。また、竹下内閣が発足した年でもあった。『スーパーニッカ』発売25周年記念キャンペーンで「マイウイスキーづくり」を実施。スコットランドのアイラ島からウイスキー原酒を輸入し『ピュアモルトホワイト』(特級)を発売。アメリカからコーン、カナダからライ麦原料の原酒を輸入し、『コーンベース』(特級)、『ライベース』(特級)、『モルト&ライ コネクション』(二級)を発売。また、フランスからはぶどう原酒を輸入するなどいろいろな出来事があった。

その頃新たに樽に詰められ、貯蔵庫で眠りについたウイスキーが熟成という成長を遂げて、今、世界一に選ばれるとは。当時、このウイスキーを仕込み、見守ってきたつくり手達にも深く感謝したい。

私の手元に英紙・サンデータイムズのコピーが届いたのだが、そこには“Och no! Japanese whisky is voted best in world”と書かれていた。“なんてことだ! 日本のウイスキーが世界一に選ばれた”というものであるが、あちらにしてみれば相当なショックであるに違いない。

昔、スコットランドへ出かけたとき「日本にウイスキーがあるのか?」と言われたことがあった。言葉の裏には「日本のウイスキーは本物ではない」という揶揄があったのかもしれない。それが世界一になったのだから驚きを隠すことはできないであろう。サンデータイムズには、変化に富んだ日本の気候がウイスキーの熟成に理想的であるということ、伝統的な「石炭直火蒸溜」を行っていることが世界一のウイスキーを生み出す要因と考えられる、と記されていた。

確かにウイスキーの熟成には気候が大きな影響をもたらすのだが、一口に北海道といっても、場所によって特性が異なる。太平洋側ではあまり雪が多くないが、日本海側は積雪が多い。余市も雪は多いが、ゾクッとする寒さは少なく比較的過ごしやすい。雪で札幌のゴルフ場が閉鎖されていても苫小牧ならプレイすることができる、など同じ北海道でも気候は様々である。

また、地図に記されている北海道はさほど広くない印象があるが、実際に訪れてみると、その広さに驚かされるはずだ。東京都内をあちこち車で移動するのは珍しくないが、仮に札幌でタクシーを拾って釧路へ行こうとすると半日がかりである。そこで、もし、余市以外の場所に蒸溜所を建てていたなら?果たしてこの結果を得られたであろうか?政孝親父が留学してスコットランドの気候を体感したからこそ、余市を選択することができたのではないか。

奇しくも政孝親父が1918年に留学して90年目、余市モルトが世界一に選ばれるとは大変感慨深いものがある。当時、海外へ出かけるということは“この世の別れ”と言われるほど大変なものであった。

神戸港からサンフランシスコへ。サクラメントでワイン工場を見学して汽車でニューヨークへ。そこから船でリバプールに行き、さらにスコットランドへ渡った。エジンバラ大学には適当な学科がなかったためグラスゴー大学へ入学し、ウイスキーを学んだ。世界一になるにあたって道をつけてくれたのはスコットランドである。

もし、政孝親父が存命だったらこのたび何と言ったであろうか。「いいものをつくれ!」が口癖ではあったが、「スコッチウイスキーを超えるものをつくれ」と言うことは一度もなかった。明治の人間である。「三歩下がって師の影を踏まず」の思想があったのではないだろうか。私には、政孝親父がひたすら喜ぶ姿は想像できない。世界一になったからと慢心せず、より品質の良いウイスキーをつくるよう諭されたに違いない。

それでも多くの人たちに余市モルトを認めていただいたのは有難いことであり、何より味わってくださる方々がいらっしゃるということが大きな喜びである。これから数十年の歳月が過ぎても、「ニッカのウイスキーは旨い!」と仰っていただけるよう精進するばかりである。