余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第74話

第74話

お酒があるところ、様々なエピソードや習慣がある

職業柄、これまでたくさんのバーや飲食店を訪れたが、店主が引退あるいは亡くなられたりして、お姿をお見かけしなくなった店も少なくない。それでも思い出は尽きることなく、ウイスキーを飲んでいると、時折、脳裏に甦ってくることがある。

銀座のとあるバーの店主は、午後9時を過ぎると背広に着替え、洒落たハットを被って私のそばにやって来た。これが彼の「飲みに行こう」というサインで、よく一緒に次の店へ飲みに行ったものである。

ちなみに、彼の店のカウンターは入り口の近くでゆるやかにカーブを描いていて、そのカーブのあたりが彼の立ち位置であった。その場所に立つと店全体が見渡せるのでお客様に細やかな心配りが出来るということであったが、そのカーブの前にある席には彼がお気に入りの常連客を座らせる。光栄にも私もよくその席に座らせていただいたのだが、「どちらがお客かわからないですね」と私が冗談めかして言ったこともあった。

バーでは様々なお酒が供される。ウイスキーもストレート、オン・ザ・ロック、水割りといろいろな出し方があり、他にもカクテルやワイン、シャンパンが注がれたグラスでカウンターがにぎやかになる。

カクテルといえば余市蒸溜所に勤務していた頃、研究所の若いスタッフたちと一緒に余市や札幌のパーティーやイベントの会場にカクテルづくりに赴いたことがあった。親しくしていたバーテンダーに教えてもらったり、本を読んで勉強したり(現在ほど多種のカクテルはなかったが)。ギムレットやドライマティーニなどスタンダードなカクテルのつくり方はほとんど覚えていた。

ときには5人前をいっぺんにつくることもあった。シェーカーを振った後、それぞれのグラスのフチぎりぎりにおさまるように注いで、最後にシェーカーを切る。ぴったり5人分、それ以上の量が残ることも足りなくなることもなく、シェーカーには氷しか残らない。材料をシェーカーに入れるとき氷の溶ける量まで計算して、あとはシェーカーを振りながら底に当てた指で冷え具合を確認すると“ぴったり5人前”が完成するのである。それから間もなく水割り全盛時代が到来、カクテルづくりに出かけることはなくなった。

先程シャンパンの話が出たが、最近では日本のシャンパン輸入量が随分増えているようだ。シャンパンはフランスのシャンパーニュ産の発泡ワインで、AOC(原産地呼称統制)の規格に則って製造されたものだけが、シャンパンと名乗ることが許されている。

随分前だが、シャンパン醸造が盛んなランスのワイナリーを訪れたことがあった。地下の貯蔵庫にはたくさんの瓶が並んでいて、動瓶(ルミアージュ)という作業が行われていた。澱(おり)を抜くために瓶を回転させ、5週間から6週間かけて澱を瓶の口に集めていく。作業をしていたスタッフが「この次のオリンピックに出るんだ」と冗談を言っていたが、それだけ労力を要するものであった。

澱が集まったら、その部分だけをマイナス20℃くらいに凍らせて、栓を外すと凍った澱が出てくる。澱を除去したらリキュール(同タイプのシャンパン原酒の古酒、コニャックなどを混ぜ合わせたもの)を加え、コルクで栓をする。ウイスキーづくりとはまた違った手間と時間がかかる酒である。

シャンパンといえば、リタおふくろから銀製のシャンパンバブルカットを貰ったことがあった。金具を引っ張ると先端がパラソルのように広がり、これでシャンパンが注がれたグラスを静かにかき混ぜて泡を飛ばす。「せっかくの泡を飛ばしたら喉ごしが物足りなくなる」という方もいらっしゃるようだが、これはシャンパンに含まれる炭酸でゲップが出るのを防ぐためである。欧米諸国ではゲップは放屁よりも恥ずかしい行為で、特に貴婦人たちにとってシャンパンバブルカットは必需品であった。私はめったにシャンパンを飲むことがないので実際に使ったことはないが、リタおふくろの思い出の品なので大切に保管してある。

お酒があるところ、様々なエピソードや習慣がある。数え上げるときりがないが、いろいろなことを話題にしながら、秋の夜長、ウイスキーを飲むのも愉しいだろう。