余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第83話

第83話

「美味しい!また飲みたい」とおっしゃっていただける商品づくりが大切だ

以前の回想録にも書いたが、昨年の「ウイスキーマガジン・ライヴ!」のイベントに能が登場した。「麦溜(ばくりゅう)」という演目でモルトウイスキーづくりがストーリー仕立てでゆるやかに展開する。能舞台にウイスキー樽が出てくるという題材はとても斬新で興味深いものだったが、日本の伝統芸能は大変、奥が深い。

宮城峡蒸溜所建設のときにお世話になった間組が明治神宮の境内で行われる薪能の舞台セッティングを行っているということで、薪能のチケットをいただいたことがあった。能舞台の周囲にかがり火を焚いて、そこで能を舞う、というものである。幽玄の世界、という言葉が使われることがある薪能だが、屋内の舞台と違って外で行われるのでじっと座って観ていると秋の風が肌寒い。もっと厚着をして来ればよかった、という思いが脳裏をよぎり、薪能見物は幕を閉じたのである。

伝統芸能といえば、最近、歌舞伎を観に行く機会があった。演目は「女殺油地獄」で、不良青年・与兵衛が油屋の人妻・お吉に金を借りようと迫り、断られると衝動的にお吉を殺してしまうという物騒な内容である。与兵衛とお吉がもみ合ううちに油が床にこぼれ、滑って転びながらもお吉を斬りつける場面は圧巻であった。与兵衛を演じられた15代目・片岡仁左衛門氏は60歳をこえていらっしゃるということだが、その動きはとても見事で舞台に目が釘付けになった。

ここだけの話であるが、私は(演目によるが)イヤホン解説がないと、話の成り行きがわからない。よく観光客と思しき外国の方が歌舞伎見物をなさっているが、彼らは果たしてどこまで内容を理解されているのであろうか

1959年、リタおふくろの妹、ルーシーが来日したとき「日本に来たのだから歌舞伎見物をしないか?」と誘ったことがあった。すると、彼女は「男性が女性の格好をしてお芝居するのでしょう。せっかくですが遠慮させていただきます」とあえなく却下されてしまった。歌舞伎がどのようなものであるか雑誌か何かで読んで知っていたのだろう。異国の伝統芸能ということは理解できても、観に行くほど興味を惹かれることはなかったようだ。

このとき政孝親父がリタおふくろに「しばらくスコットランドに里帰りしてはどうだ?」と勧めたのだが、リタおふくろは「今は船ではなくて飛行機でしょう?私が飛行機を嫌いなこと、ご存じなくて?」と帰ろうとはしなかった。「ヒゲのウヰスキー誕生す」には「在日すでに40年、リタはいまでは竹鶴リタの名を持つ日本人になりきっていた。故郷を今一度この目にしたくないと言えば嘘になる。が、いまさら戻ったところで、なにが待っているだろう。妹に迷惑をかけるだけではないのか。自分にとって、故郷はもはやこの余市を措いてはない。リタは夫の勧めを断り、故郷へ帰るルーシーを見送った」と記されている。

今となってはおふくろに直接確かめることはできないが、私が知るリタおふくろは礼儀作法や言葉遣い、料理に至るまで日本人以上に日本人らしかった。今でこそ里帰りは珍しくないことではあるが、昔は嫁いだら、生涯をその土地で送るのが当たり前であり、嫁ぐということは、それなりの一大決心が必要なことであった。リタおふくろにも、そんな強い思いがあったに違いない。

先日、ある店で『竹鶴21年ピュアモルト』を飲むことになった。栓を開けると「素晴らしい香りですね」という声が上がった。そして、こんなことを尋ねられた。「そのウイスキーは手に入るのですか?」一瞬、どうしてそんなことをおっしゃるのだろうと思ったが、本数が限定されているウイスキーが完売して手に入らない、という話を聞いたことがあった。おそらくその方は『竹鶴21年ピュアモルト』も本数限定のウイスキーだと思われたのだろう。私は「(定番商品なので)間違いなく手に入りますよ」とお答えし、一緒に『竹鶴21年ピュアモルト』を愉しんだ。

『竹鶴21年ピュアモルト』は今年、英国のウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」の発行元であるパラグラフ・パブリッシング社が主催するウイスキーの国際コンテスト「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で世界最高峰の栄誉にあたる“ワールド・ベスト・ブレンデッドモルト(ピュアモルト)”を受賞。2007年に『竹鶴21年ピュアモルト』が、2008年に『シングルモルト余市1987』が同コンテストで世界最高峰に認定されていることから、今回で3年連続の受賞である。

大変喜ばしいことであるが、受賞したことを驕らず、より品質が高い、皆様が喜んでくださるウイスキーづくりに務めるのがニッカの役目である。少しずつではあるがウイスキーの需要が伸びてきている。売れることを願うのは当然であるが、やはり「美味しい!また飲みたい」とおっしゃっていただける商品づくりが大切だと思うのだ。