余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第87話

第87話

頑固な料理人と政孝親父

早いもので、もう10月も終わりである。ついこの間正月を迎えたと思っていたら今年もあと残すところ2ヶ月余りとなった。大掃除には少々早いが、書類の整理をしようとダンボールを開けたところ古い新聞や原稿が出てきた。新聞の日付は昭和61年2月26日。三面にはコラソン・アキノが新大統領に就任した、と書かれている。政孝親父とリタおふくろのことが掲載されていたのを知人が送ってきてくれたもので、記事自体は、二人の半生を紹介したものだった。

写真は、余市の自宅で正月を迎えたときにリタおふくろが和服で盛装して記念撮影したものと、江ノ島の海岸でくつろいでいるときの2枚。ああ、こんな写真もあったなぁ、と懐かしくなった。記事の右側に大きな文字で“ニッカウ井スキー”と記されているが、これはおそらく活字が無かったのであろう。政孝親父が「ウヰスキーではなくウ井スキーのほうがデザインのバランスがいい」と言っていたこともあったが、会社として正式に文字の変更が行われることはなかった。

この新聞には、政孝親父が懇意にしていた料理屋の主人のコメントも寄せられていた。随分以前に、この回想録に書いたことがある頑固な料理人である。コメントを読むと懐かしさで頬が緩んだ。

「・・・カイゼルひげは、真っ黒でした。とにかく、元気いっぱいという感じです。声のよくとおる人で、とても内緒話なんかできっこない。足ははやくて、ときどき近くのバーへご一緒するときなんか“社長、もっとゆっくり歩いてくださいよ”といったものです。料理にもよく注文をつけられました。“黙って食べなはれ”と悪態をついたことも」。

2人のやり取りが目に浮かぶようだ。また、ウイスキーについても書かれていた。

「・・・和食料理のときは日本酒で、途中で“料理はもういらないよ。ウイスキーだ、ウイスキーだ”ときっちりなさっていました。そうです、ゴールドニッカやスーパーニッカでした。ときには水割りで、それこそ美味しそうに飲んでいらっしゃいました」。

私も何度か彼にお会いしたことがあったが、かなり個性的な人物であった。店にメニューはなく、料理はすべて主人のお任せである。刺身もお椀も煮物も、飛びきりの素材で丁寧な仕事がなされており、どれも文句のつけようがない(政孝親父は注文をつけたが)。そして、何があったか定かではないが「二度と来てくれなくて結構だ!」とお客さんを怒鳴りつけているところに遭遇したことがあった。こう書くと、頑固者の偏屈親父、という印象を持たれるだろうが、彼は丹精を込めてつくった料理を温かいものは温かいうちに、刺身も表面が乾いてしまう前に美味しく食べて欲しい一心だったに違いない。

時代は変わり、彼のような傑物がめっきり少なくなったように思う。頑固な料理人と政孝親父。つくるものは違っても、より良いものを、味わった人が喜んでくださるものを求めていた姿勢は同じだったのだろう。二人きりでどんな話をしていたのか、聞いてみたかったような気もする。

ここ数年は家で夕飯を食べることが多くなったが、それでもたまに誘われて外食することがある。繁華街ならまだしも、住宅街にぽつりと佇む店などに案内されると“よくこんな店を見つけたものだ”と感心させられる。一体どうやって探すのだろう?もちろん、紹介ということもあるだろうが、その他の情報源は何なのだろうか?

興味があったので知人に尋ねたところ「インターネットで探すんです」という答えが返ってきた。飲みたい酒や料理を入力して検索すると、店情報がずらりと出てくるらしい。とはいえ、そこが本当に旨い店なのか、どうやって分かるのかと聞くと口コミを参考にするのだという。“料理も雰囲気もよろしい”という良い評価ばかりでなく“期待したほどではなかった”というマイナス評価の方が重要らしい。話題性への期待であろうか?

では、ニッカの商品はどんな評価がされているのだろうか?もちろん評価されることばかりを考えて「美味しい」の一言を聞くと、たまらなく嬉しい、というのが正直な気持ちである。