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第88話

第88話

どんな時代にあってもウイスキーが皆様の心の拠り所でいられるように

世の中は変わっていくものだと感じることのひとつにペットボトルがある。会議や打ち合わせのとき、目の前にポンとペットボトルが置かれる。グラスはない。最初「どうやって飲むんだ?」と思ったものだが、ひとり1本ずつなので、そのまま口をつけて飲んでも問題はない。空になったペットボトルはリサイクルにまわす。グラスや茶碗などの洗い物が出ないので水を節約することができる。いわゆるエコロジーということであろうか。

ペットボトルといえば、若い人たちがペットボトルの水を飲みながら歩いている姿をよく見かける。これはヨーロッパの習慣が日本に定着したものだという話を聞いたことがあるが、日本は水道水を飲み水にしても問題はない。最近では東京の水道水もおいしいという話も聞かれるようになってきて、これも多くの人たちが環境問題に真剣に取り組んでいる証拠であるに違いない。

ちなみにスコットランドの水は茶色の場合がある。地表を覆うピート層をくぐっているのでこの色になっており、味や香りに問題があるわけではない。ピートは堆積した草炭や泥炭のことで、ウイスキーづくりでは大麦麦芽の乾燥時に使用される。独特のスモーキーフレーバーは、このピートによるものだ。

日本の水は地域によって異なるものの、平均すると軟水に属すると言われている。ミネラル分の含有量が少ないので和食など素材の香りや風味を生かす料理や日本茶、紅茶、コーヒーそしてウイスキーの水割りなどに使用すると味や香りを十分に引き出すことができる。日本の水は豊かな日本の食文化に大きく貢献しているといっても良いだろう。

ところで。ニッカウヰスキー本社が面した東京・南青山の通りは「骨董通り」と呼ばれている。この名前は、「ある著名な古美術鑑定家が作詞を手がけた歌に由来する」という説と「江戸時代より多く骨董市が開かれていた」など諸説あるが、情緒があって覚えやすい名前である。とはいえ、歩いてみると骨董品店より有名ファッションブランドのショップが多く見受けられる。しかし、いつもたくさんのお客様で賑わい、商品が飛ぶように売れている、という気配はない。

私は知り合いのデザイナーに「どうして骨董通りに出店しているのか?」と尋ねたことがあった。すると答えはこうだった。「青山にお店があるというだけで信頼度が違うんです。たくさん売れる、というのではなく青山にショップがあるだけでプラスになっているんですよ」。ひたすらウイスキーづくりをやってきた私にとってはピンとこない話だが、業界によって場所がステイタスシンボルになることがあるらしい。

さて、肝心の骨董品店であるが、数年前のこと、車で通るたびに気になっていた“英国骨董”という看板があった。興味があったので一度覗いてみたいと思い、近くまで行ってみたものの店が見当たらない。近所の人の話によると、閉店してしまったということだった。それは素晴らしい家具や調度品があったとのことだが、価格もそれなりに立派だったためなかなか売れなかったらしい。

昨今、「百年に一度の大不況」といわれているがその予兆は随分前からあったように思う。戸棚の整理をしていたら、銀座にあった老舗バーのコースターが出てきたことがあった。経営難で閉めてしまうので記念に持っていって欲しい、と渡されたものであった。

その店にあった大変立派なステンドグラスは、かなりの価値のものであり、今は外されて倉庫に眠っているらしいが、思い出すたびに“誰かが有効利用してくだされば良いのに”と思わずにいられない。そのステンドグラスだけで集客は望めなくても、訪れた人が心地よくくつろげる空間づくりに大いに役立つのではないか。

何かと厳しいことが多く、ともすれば豊かさを見失いそうになるが、1杯のウイスキーが心を安らかにする役割を果たしてくれたら、と思うのだ。バーを訪れると、ウイスキーを愉しんでいらっしゃる皆様の顔はとても穏やかである。「うまいねぇ!」の一言に私の表情も思わずほころぶ。どんな時代にあってもウイスキーが皆様の心の拠り所でいられるように。我々つくり手たちは、ますます精進していかなければならないと改めて思うのだ。