余市蒸留所写真 余市蒸留所写真

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第24話

第24話

ブレンドの根本にあるのは風の味

私がニッカウヰスキーの前身である大日本果汁に入社したのは昭和24年。当時、ウイスキーは値段も高く、初任給が4、000円くらいの頃に1級ウイスキーが1、200円くらいと、大変高級なものであった。当時、ウイスキーは税法上、「雑酒」に属していた。翌年にウイスキーの価格統制が解除されて自由価格、自由競争時代に入ったので、他の酒に比べて早い時期に販売競争が始まった。ウイスキーの売上げが著しく伸びたのは、このことも大きく影響していたといえるであろう。

政孝親父は「断固として3級ウイスキーは出さん!」と頑張っていたのだが、会社の存続を考えるとそうもいかない。渋々出したのが、3級ポケット『スペシャルブレンド』であった。容量180㎖で価格は150円。後に720㎖で600円の『スペシャルブレンド』を発売することになったのだが、それを社員が政孝親父に「瓶が大きくなったのだから割安になるのでは?価格は500円ではないでしょうか?」とかけあったところ、「馬鹿なことを言うな。ポケット瓶は宣伝用であって、まず飲んで貰って、うまいと思ったら買って貰えばよいのだ!」と叱られたという。

本意ではない3級ウイスキーであっても、一番大切なのは飲んでくださる方なのだという政孝親父の心意気は、まだ駆け出しであった私の心にも強く響くものがあった。

余市蒸溜所に勤め始めた頃の私は、研究室でウイスキーその他の分析、ブレンドを行う他にも製造過程(糖化・発酵)の管理も行っていた。ブレンダーの仕事で何より大切なのは、「香り」「味」に慣れることである。テイスティングというのは、ブラインド(目隠し状態)で行われる。これは昔も今も変わっていない。ブレンダー以外の人にテイスティングをしていただくこともあるのだが、実はブレンダーが行うよりも、より飲んでいただく方に近いということで、大変貴重な結果が得られたりするものである

あまり知られていないかもしれないが、こんな方法がとられることもある。例えば1番から10番までのサンプル(樽から出した原酒)があるとする。順にテイスティングすると、1番、4番、9番は、あまり良い評価がなされない。まず1番目は、基準となる評価が出来ていないので、どうしても中間的な採点がなされてしまう。4番と9番は、ありがちな数字に対するイメージが出てしまうのか、これまた良い評価がなされない。逆に7番目というのは「ラッキーセブン」という言葉もあるとおり、実は良い評価を得やすいのである。この固定概念はテイスティングの妨げになりやすい。だからといって、決してマイナスではない。人間であるからには、そのような感情が動くのも無理からぬ話である。

そこで同じサンプルを2箇所に入れて、ブラインドテストを行うことがある。例えば1番と7番を同じサンプルにしてみる、といったように、固定概念を静かに覆していくのである。そうすると、面白い結果が得られたりする。同じサンプルなのに判定の仕方が微妙に違ってみたりするのだ。同じ銘柄のウイスキーであっても、味わう人によって香りや味わいは微妙に違う。それこそがウイスキーの醍醐味なのだ。

香りはガス・クロマトグラフィーと呼ばれている分析機械で測定することは可能だが、ウイスキーの香りを楽しむのは機械ではなく人間である。機械だけのテイスティングは不可能。どんなに精密な機械であっても肝心要の部分、すなわち、混成した香りは人の嗅覚でなければ判断できない。おそらく人の嗅覚には機械には判断し得ない何かが存在するのだろうが、こればかりは未だに解明できていない。どんなに文明が発展しても、グラスにウイスキーを注ぎ、ひとつ、ひとつをテイスティングするブレンダーという職業は存続するに違いない。

そんなことを思うとき、ふっと政孝親父の言葉が思い出される。いつだったか政孝親父がテレビに出演したとき、こんなことを話していた。「酒でも食べ物でも、環境の影響を受けるものだ。どちらも良い空気を吸ってうまくなる。これぞ“風の味”である風味。そう、我々は風の味を作らなければならないのだ。」

確かに鯵の開きといった干し魚など、まさに風の味、風味ではないか。ブレンドの根本にあるのは風の味。余市、宮城峡といった風土が作り出すウイスキーの味わいなのである。

ブレンドの奥深さは、幾つになっても極めるということを知らない。私は折に触れ、それを深く感じ入るのであった。